運動時の水分補給の必要性

スポーツアスリートが水分補給を行なう本当の目的とは?運動時の正しい水分補給方法、夏場のお茶・麦茶の欠点、脱水量とパフォーマンス能力低下のメカニズムの解説。

★運動時の水分補給の必要性(もくじ)

◆時代によって変化してきた水分補給の概念

 運動中の水分補給の必要性はスポーツアスリートであれば誰もが理解している事だろう。

 部活動やクラブ活動など、スポーツを実践中のアスリートであればマイボトルを準備して試合だけでなく練習中も水分補給を豆に行なうことは現在では当たり前になっている。

 しかし、平成生まれの子供たちは解らないかもしれないが、ほんの一昔前、1980年代あたりまでは部活動中に水分を摂ることが許されないような時代があったことを一応お伝えしておきたい。

 信じられない話しに聞こえるかもしれないが、部活動などの練習中などに水分補給をするなど言語道断。

 「苦しい練習中に甘ったれた事を言うな!」

 と先生やコーチに叱られてしまうような時代が本当にあったのだ。

 但しこの頃は、今ではありえないトレーニング方法となった「ウサギ跳び」などのトレーニングを小学生が行なっていた時代。

 その時代では常識であったことが、現在では非常識となっていることはとても多いが、水分補給の概念はその代表格と言えるかもしれない。

◆運動時に水分補給を行なう目的は一体なんだろう?

 運動時に水分補給を行なう目的についてここで一度真剣に考えてみよう。
 「あなたが練習中や試合中に水分補給を行なっている目的とはいったい何なのだろうか?」

 目的?と言われると不思議な感覚がするかもしれないが、あなたのコーチや先生、そして両親は特に夏場になればしっかり水分補給をしなさいよ。と声をかけてくれているはずである。

 その理由は、まず第一に脱水症状を起こさない事が最大の目的であると考えた方が大半ではないだろうか。

 あまりにも当たり前の答えではあるが、水分補給を行なう最大の目的はシンプルに脱水症状を起こさない事がやはり一番の目的となる。

※水分補給の目的は脱水症状を起こさない、起こさせないことが最大の目的

 猛暑の夏場になれば熱中症の話題が毎年のようにニュースになるが、この熱中症に至る原因としても正しい水分補給を行なうことができずに脱水症状を招いてしまったことが背景に潜んでいるケースが大半である。

 現在では練習中であっても喉が渇いたら軽く水分補給を行なうような習慣が定着しているが、これは脱水症状を原因とする事故の発生を未然に防止する事が目的にある為なのだ。

◆水分補給の必要性・疲労物質の蓄積以外の運動能力の低下現象について

 水分補給を行なう目的は、想像通りシンプルに脱水症状の予防・防止という目的があったが、ここではスポーツアスリート向きにもう一歩踏み込んで水分補給の重要性について確認していこうと思う。

 今現在、スポーツ競技を実践中のアスリートは特に、水分補給を行なう必要性については、運動パフォーマンスとの関連性についても把握しておくべきである。

 無酸素系の運動競技、例えば陸上の短距離や水泳の短距離など極短い時間で決着がなされる競技種目の場合は水分補給の間もなく対象から外れる競技もある。

 しかし多くのスポーツ競技では試合やゲームの序盤から中盤にかけてはある程度のパフォーマンスを発揮できるが、やはり終盤の疲労が蓄積してきている段階では、パフォーマンス能力は一般的に低下していくものである。

 例えば試合時間90分のサッカー競技で考えてみると、前半からガンガン走り回っている選手が後半の残り数分の時間帯でも前半の始まった時と同じような動きはやはりできないもの。

 サッカーの試合を見ていると「足が止まってきましたねぇ」といったニュアンスの解説を度々耳にするが、これはやはり疲労が蓄積する後半では当たり前のこと。

 このようなパフォーマンス能力の低下は全てのアスリートに共通して発生する避けられない現実である。

 更にスポーツアスリートはこのような疲労物質の蓄積だけでなく体内の水分量の低下によって起こるパフォーマンスの低下という問題がある。

 水分補給とパフォーマンスの低下が大きな関連性を持っていること。更に発汗などによって失う水分量が自分の体重の何パーセントに達するとパフォーマンス能力が低下しはじめるのか?などまずはこの水分補給とパフォーマンスの関連性についてスポーツアスリートの方はしっかりと把握しておくべきである。

◆水分補給・脱水量とパフォーマンス能力低下のメカニズム

 水分補給とパフォーマンス能力の関連性に関しては具体的に発汗による脱水量のパーセンテージで傾向を確認することができる。

 まず発汗によって失った水分量が体重のわずか1%程度に達するだけで僅かずつではあるがパフォーマンス能力の低下現象が徐々に始まることが解ってきている。

 そして個人差はあるものの体重の約2%にあたる水分脱水量を超えてくるとこのパフォーマンスの低下は確実に現れるようになる。

 更に脱水量が3~4%に達すると見た目にも明らかに運動能力の低下が確認されるようになる。

 まずここで覚えておくべきポイントの目安としては体重の約2%を超える水分量を失うと人体の運動機能の働きが低下し始めるという事実である。

※体重の約2%以上の水分量を失うとパフォーマンス能力は確実に低下する

 ではここでも具体的に事例を挙げて考えてみよう。

 例えば男子高校生で体重が60kgの選手の場合。

 体重が60kgのアスリートの場合、体重の1%にあたる600ミリリットルの水分を失うとパフォーマンスの低下が徐々に現れ始めることになる。

 そして2%にあたる1.2リットルの水分を失うと確実にパフォーマンス能力が低下し、3%~4%にあたる1.8リットル~2.4リットルの水分を失うと目に見えて明らかに競技能力に低下が見られるようになるという事になる。

 一般的にスポーツ選手は日常から鍛えられている為、筋肉量も多く基礎代謝が高い。

 また体温調節に関わる発汗能力も高い傾向にある為、現実的には1試合で体重が1キロ~2キロ程度減少してしまうことは別に珍しい事でもないだろう。

 実際に2~3時間程度の部活動練習などでも激しい練習日であれば体重が2~3キロ程度一気に減少してしまうような経験をした事があるアスリートも多いと思う。

 水分補給が十分に行われなかったとしても鍛えられたアスリートであれば運動競技自体の継続は可能ではあり、終盤でも質の高いパフォーマンスを発揮できる可能性はあるが、人体組織単位ではやはり能力が低下している事をここでは覚えておこう。

 以下に脱水量によって発生するパフォーマンス能力の低下現象や代表的な自覚症状を一覧表にまとめておく。

 上記で解説した体重60kgのアスリートの事例を参考に自分の体重にあてはめて一度自分自身で算出してみよう。

脱水量によるパフォーマンス能力低下割合の目安
体重に対する脱水量の割合詳細解説
約1%パフォーマンスの低下が始まっている状態。
約2%喉の渇きを覚える(人体からの水分補給の合図)パフォーマンスも確実に低下しているが自覚症状としてはまだ気づきにくい状態。
約3%~4%体感としてきつい状態。自覚症状もあり見た目にもパフォーマンスの低下が見られる。
約5%以上集中力の極端な低下、めまい、吐き気などを覚える危険な状態。

◆熱中症による脱水症状・夏バテを予防する

 夏場の部活動などの練習中に立ちくらみやめまいなどを覚えた事がある選手は前述したように大量の発汗によって脱水症状を発症している可能性が高いと言える。

 実際に連日の猛暑がニュースで話題となる期間は毎年のように都道府県別に「本日、熱中症によって病院へ運ばれた人数は◯◯県で何名…」といったニュースを耳にするが、スポーツ時以外の熱中症の根本的な原因も大量の発汗による脱水症状が原因となっている。

 自分の頭の中ではまだまだ大丈夫!と感じてはいても人体の組織は水分不足の合図を出している。

 この脱水症状の合図を自分で把握する最も解りやすい方法は、「喉の渇き」を確認する方法。

 これは人間の体は約1.5%~2%の水分量を失うと喉の乾きを感じるように働きかけるシステムが備わっている為だ。

 スポーツ実践中は体内に発熱が起こる為、熱を下げるために大量の発汗がなされる。

 運動開始直後に喉の渇きを感じることが少ないのは、一定量の水分をまだ失っていない段階であり、実際に喉の渇きを感じ始めた時に水分を補給する習慣を身に着けておくと熱中症や脱水症状による夏バテの予防にも繋がる。

 尚、スポーツ選手の運動中の正しい水分補給の仕方については後述する王道的な水分補給方法があるのでそちらを参照して欲しい。

◆筋肉や細胞の能力を更に引き出せていた可能性

 水分補給の目的は脱水症状の予防といった安全面を考慮した重要性は確かに大切であるが、やはり現役選手の場合は前述したパフォーマンスの低下という事実は大きな問題であると感じた方も多いかもしれない。

 実際の試合中では仮に発汗によって水分を大量に失い体重の2%以上の水分を失っていたとしても、あからさまに運動能力が低下していく選手の姿を目にするような事は少ないだろう。

 これは前述したように鍛えられたアスリートは日々の練習の中で、このような場面であってもパフォーマンスを発揮できるように練習をしっかり積んでいるためである。

 現実的にスポーツ初心者や運動不足の人が同様の状況下におかれたならば同じようなパフォーマンスを発揮することはやはり難しい。

 しかし、このように脱水症状に近い状態で最高のパフォーマンスを発揮できる力を既に養っていたとしても、やはり筋肉や細胞単位レベルで考えると十分に能力を引き出せない状況となっている点を把握しておくべきである。

 逆に言えば、適切な水分補給を実施できたならば筋肉や細胞が本来はもっと発揮できたであろう能力を引き出せる可能性を持つことに繋がる。

◆スポーツ選手の運動中の正しい水分補給の仕方

 運動中の水分補給方法については様々な見解がある為、これが唯一正しい方法である。という見解はない。

 これは前述したように
「水分補給をすると根性が弱くなる」
「ウサギ跳びをすると脚力がつく」
 と思われていた時代があったようにその時代によって適切であると思われる回答が異なるため。

 しかし、多くの理論、王道的なセオリーが存在するように水分補給に関してもおそらく変わらないであろう王道的な水分補給方法は存在する。

 現在、最も理想的とされる水分補給の仕方は「こまめに何度も水分を補給する」という考え方である。

 簡潔に言えば、失った分の水分量をその都度補給していく方法という事になる。

 当然運動能力、競技中のパフォーマンス能力の低下は水分量だけで決まるものでもない。

 その為、時間の経過とともに徐々にスタミナが落ち、動きのキレが鈍ったり、集中力が低下するなどの傾向は誰にでも現れる。

 しかし、こまめに水分補給を行なう事で大量の発汗によって発生するパフォーマンスの低下現象を最低限防止することができる。

 このような考え方から、水分補給に関しては少量ずつ何度も補給し水分量を一定に保つ方法が現在の主流となっているのである。

 しかし、この水分量を一体に保つ考えだけでは体内の浸透圧に対する問題を解決できていない。

◆体液中のナトリウム濃度を考慮した水分補給方法(お茶や純水による水分補給の欠点)

 水分補給を行なう際に効率良く体内へ水分を補給するためには、体内の体液に近い浸透圧の水分を補給してあげる事が理想である。

 浸透圧とは簡単に述べると体液中の成分の割合、この場合はナトリウム濃度を示す。

 体内のナトリウム(塩分)は濃度が高くなると一定の水分を取り込んで体液中の濃度を一定に保つように働きはじめる。

 逆に体液中のナトリウム濃度が極端に低下すると、細胞はナトリウム濃度を維持するために体内から水分を排出しナトリウム濃度を一定の濃度に保とうと働く。

 部活動などで大量に発汗すると体内のナトリウムは汗とともに流れでてしまうため、体内のナトリウム量は低下している状態となる。

 ではこの状態で例えば、「純水」「お茶」を補給した場合はどうなるだろうか?

 表向きは水分が体内に補給されたように感じる。

 しかし、体液中ではただでさえ発汗によって不足しているナトリウム濃度が純水の侵入によって更に薄くなり体液中のナトリウム濃度が更に低い状態、いわゆる人体にとっては非常事態に近い体液状態となってしまっている事になる。

 そして結果的に、体液中のナトリウム濃度を戻すために、摂取した水分を体外へ排出しようと働き始める事になる。

 これでは実質的には水分補給を行なう目的を果たすことが出来ていない事がお解り頂けるだろうか?

◆部活動・課外活動では食塩を利用する

 尚、実際は、「純水」「お茶」の補給であっても純水は一時的な水分量の確保と「体熱の拡散」というもう一つの重要な仕事を行なう原料となるため、純水であっても水分補給から得られる利点がまるでないという訳でもない。

 課外活動としての部活動等では学校によってはスポーツドリンクが認められておらず夏場などはウォーターサーバーに麦茶などを入れて対応しているケースもあるだろう。

 このような場合は塩分と合わせて摂取する事でナトリウム濃度を高める事が可能となるため、塩飴や、飴が認められていないケースでは「食塩」をそのまま舐めてから水分補給をするように対応すると良い。

 ただ水分補給を行いだけでなく塩分を合わせてしっかり補給できたならば、前述した体液中のナトリウム濃度を戻すための体内の水分排出作用も抑制される。

 部活動などでは夏場の脱水症状や、脱水症状からおこる熱中症の発生確率も高くなるため、指導者は子供達自身が「水分補給のメカニズム」を理解した上で進んで塩分摂取と水分補給を行えるように指導していくことが望ましいと言える。

 しかし、やはり「ベストパフォーマンス」を発揮できる状態を準備していく為には、やはり体液に浸透圧が近く設定されている負担の少ない「スポーツドリンク」などで水分補給をこまめに行なうのが理想的である。