チーティング法の効果・危険性

チーティング法の効果・危険性、トレーニングで取り入れる際のポイント、チーティングとストリクトを意識した筋トレのまとめ。

★チーティング法の効果・危険性(もくじ)

◆チーティング法とは?

 「チーティングは危険だからやめたほうがいいよ・・・・」
 「マンネリ防止策にはチーティングを取り入れるべきだよね」

 どちらも同じ意味をもつ言葉であるが、トレーニングジムでは相反するような言葉が飛び交うことがありうる。

 ウエイトトレーニングを実践中のアスリートであれば、一度は「チーティング法」という言葉を耳にしたことがあるかもしれない。

 ではこのチーティングとはいったいどのようなトレーニング方法なのだろうか?

 ここではスポーツアスリート向けにチーティングに関する基礎知識についてチェックしていこうと思う。

 トレーニングに関する専門用語は非常に多い。
 しかし、言葉の意味がわかれば何も難しいことは一切ない。

 簡潔に言えばチーティングに関しても、「反動」という言葉や「ごまかし」「反則」などといった簡易的なイメージがあれば問題ない。

 ではまず、トレーニング初心者の方の為にも簡単に内容をまとめてみよう。

◆反動や補助筋群を動員して行うトレーニング法がチーティング法

 チーティングとは直訳すると「反則」という意味をもつことがわかる。

※チーティングとは?=反則・ごまかし

 一般的に推奨されている筋力トレーニングは、できる限り反動などを使わずに「純粋に対象となるトレーニング部位のみの筋肉」を使用してトレーニングを行う。

 尚、これをストリクトと呼ぶ。

※ストリクトとは?=純粋に対象となるトレーニング部位のみの筋肉でウエイトを挙上すること

 チーティングを語る際には、このストリクトは必ず対象として出てくる言葉。
 ここで言葉と意味を覚えておこう。

 そして、このトレーニングの基本原則からはずれて、反動などを利用し、対象となる筋肉以外の補助筋群を動員して行うトレーニング法をチーティング法とよぶ。

※チーティング法=反動や他の筋肉群を使用してウエイトを挙上すること

 ざっとイメージしてもわかると思うが、ストリクトよりもチーティングの方が扱えるウエイトがヘビーになることは容易に推測できる。

 トレーニングのヘビーユーザーがチーティングを好むのもその為だ。

◆トップレベルのボディービルダーでさえも時には反動を用いるチーティングを取り入れている

 チーティング法は危険性の高いトレーニング手法であるとしてたびたび話題に上がる。

 これは、前項で解説したとおり複数の筋肉や反動など、全ての技術や筋力を総動員して負荷の高いトレーニングを行うことに由来する。

 最も危険性が高いとされる要因として考えられるのは、「フォームが崩れる」という問題である。

 フォームの崩れはトレーニングを行うアスリートに様々なデメリットをもたらすことは周知の事実。

 簡潔に述べると

★筋断裂や肉離れなどの重い怪我の発生
★関節や椎間板などへのダメージ
★トレーニング効果が逆に出ない
★追い込みすぎによる血管組織・心臓への負担

 などのデメリットが幾つか思い浮かぶのではないだろうか?

 このように多くのデメリットが存在すると思われるチーティング法ではあるが、ベテランのトレーニング者や人体の筋肉の究極を競うボディビルダーの間ではこのチーティング法が好まれて利用されているケースも存在する。

 危険性・リスクを把握した上で尚、チーティング法が取り入れられている事実を考慮をすると、おそらくそのデメリットを超える利点が存在すると考えることができる。

◆チーティング法は正しいフォームとはとても言えない

 筋力トレーニングの絶対的な基本条件のひとつに「正しいフォーム」という概念がある。

 筋トレにおける正しいフォームは実は完全に正解と言えるものはまだ存在していない。

 これは時代によっても正しいフォームが異なり、また時代によって目的となる概念が変化してくるためである。

 その為、現在多くの書籍などで紹介されているトレーニング手法もまた時代が変われば基本となるフォームも変化してくる可能性があることになる。

 尚、現在の正しいフォームの概念とは、簡潔に述べると関節に無理な負荷が加わらないフォームとして定められていることが解る。

 筋トレとも呼ばれるとおり、筋肉のトレーニングである以上、しっかりと筋肉に「効かせることができるトレーニング」であること。かつ関節に不自然な負荷のかからないフォームであることが理想的なフォームなのである。

 こうして考えるとチーティング法は正しいフォームとはとても言えないだろう。

 崩れたフォームを使ってまで、筋肉を追い込んでいく手法。
 これがチーティング法であるとも言える。

 その為、トレーニングを始めたばかりのアスリートが反動を利用しようとすると注意を受ける事になる。これは安全性を意識した正しいフォームで行う事が今現在の正しい概念となっている為。

 この見解はおそらく今後長らく変化することはないだろうし、チーティングが積極的に推奨されるような事もおそらくないと言えるだろう。

◆二頭筋マニアと呼ばれるような力瘤ばかりにこだわるトレーニングマニアが多いの理由

 若干話しがそれるがトレーニングジムなどで定期的に筋トレを行なっている方の場合は「二頭筋マニア」という言葉を聞いたことがある方がいるかもしれない。

 ここで言う二頭筋とは上腕二頭筋、いわゆる「力瘤(ちからこぶ)」のこと。

 もちろん大腿二頭筋ではない。

 アームカールなど上腕二頭筋のトレーニングでは純粋に単体の筋肉に刺激を与えることが比較的容易である。

 そのため、上腕二頭筋は効率良く刺激を加えることができ、発達も著しく成長が確認しやすい部位とも言える。

 力こぶや胸板は男の象徴、強さを示すようなイメージもある為か、二頭筋マニアと呼ばれるような力瘤ばかりにこだわるトレーニングマニアは実に多い。

 この理由もおそらく

★筋細胞への刺激をダイレクトに加えやすい
★比較的成長を感じやすい

 という点が大きく関与している。

◆100%純粋なストリクトもまた存在しない

 さて前項では少し話がそれて二頭筋マニアについてのお話をしたが、この上腕二頭筋の代表的なトレーニング種目のひとつにアームカールと呼ばれるトレーニング種目がある。

 このアームカールは実際に実践してみるとわかるが、トレーニング後半のレップになると、動きが遅くなり想像以上に腕の伸縮が困難になってくる。

 そして、まさにこの苦しくなった後半のレップの際におよそテーティング法に変わりない反動を用いたトレーニングを実践しているアスリートを多く見かける。

 本人はそのつもりはなくとも、実はチーティング法に類似する動作を無意識下でほとんどの方が取り入れていることもまた事実である。

※レップの後半では誰もが無意識にチーティングをしている可能性がある

 チーティングを一切用いず筋肉を単体できっちり追いこんでいく事は、おそらく一人では実は無理な話しに近い。

 追い込めないという前に、反動や他の筋肉を動員してレップを仕上げてしまうのが一般的な人体の働きであろう。

 これは人間の神経系の構造に由来する問題。
 厳密に言えば100%純粋なストリクトもまた存在しないのである。

 また同様に、ベンチプレスなどのトレーニングでは、ベンチから背中の脊柱起立筋群が離れ、「エビ反り」に近い状態でトレーニングを行っているアスリートも多く見かける。

 これは典型的なチーティング動作。

 このような、エビ反り状態のトレーニングもまた複数の筋群を動員してトレーニングを実践している証しであると言える。

 ひとつの動作に対して複数の筋肉が総動員する人体の仕組みは人体の防衛反応の仕組みも関与している。

 一部位の筋肉単体で行えば筋細胞が破壊されてしまうような動作であったとしても複数の筋肉を動員することで1つずつの筋肉へ加わる負担を軽減することに繋がる。

 ここで大切なことは、このような生まれ持って備わっている仕組みを理解しチーティング法の利点を上手に活用できる場面を見つけて行くことにある。

◆反動を用いることでよりハイレベルのヘビーウエイトを使用したトレーニングが行えることになる

 チーティング法のメリットを最大限に考慮して意図的に使用する場面を考えてみよう。

 ウエイトトレーニングを実践しているアスリートが常習的に行うチーティングは、前項でも解説したとおり後半のレップ時のトレーニングである。

 より深い刺激、より深いダメージを筋細胞に加える為に一部チーティング法を取り入れる。
 といった具合だろうか?

 仮に無意識であってもストリクトでは扱えないウエイト重量を反動などを用いてトレーニングすることで、より深いダメージを与えることができるのは事実。

 もちろんこれが意図的である場合は尚更の話。

 怪我の発症の可能性もそこまで危険性は高いとは言えず、反動を用いることでよりハイレベルのヘビーウエイトを使用したトレーニングが行えることになる。

 チーティング法は意図的に効果を増大させるために使用する場合、その付加の高さに見合う効果を期待することもできるのだ。

※意図的に高負荷ウエイトを使い効果UP!

◆「スランプ」や「プラトー」を脱出できるひとつのきっかけ

 繰り返しになるがチーティング法の導入は同時に自分の筋力以上の動作を行わせることによってスポーツ障害などを発症する可能性が常につきまとうことも意味している。

 トレーニングは基本的に、必ずいつかマンネリに近い成長が感じられないような時期が到来する。

 メンタル的にもやや落ち気味で、トレーニング効果も低下しているような場面。

 このような場面では、意図的にチーティングを取り込むことで「スランプ」「プラトー」を脱出できるひとつのきっかけとなるかもしれない。

 こうして考えてみると頭ごなしにチーティングを否定せず、チーティングの使用に関しては戦略性が求められると言えなくもない。

◆アスリートが陥るストリクト正当化論によるウエイトトレーニングの落とし穴

 スポーツクラブなどでウエイトトレーニングを開始する場合、まず一番最初に習うトレーニング種目のひとつに「ベンチプレス系」のトレーニングがある。

 現在はフリーウエイトからスタートすることはなく、初心者は必ずマシンのチェストプレス系のトレーニングからスタートする。

 チェストプレスから行う理由はビッグ3のひとつである点もあるが、それ以上に座位でシンプルに動きを目視で意識しながら筋肉の使い方を学習できる点にある。

 マシンを使用したトレーニングは、可動範囲も制限され正しい軌道も確保されることから、正しい刺激を筋肉に与えやすい構造になっている。

 この点から見ても初心者はマシンからスタートするのが理想である。

 しかし、スポーツ競技を実践中のアスリートがマシンによるトレーニングのみに片寄ってトレーニングしていくことにも実は大きな問題がある。

 これは、実践中の動きが伴わない軌道にそった筋力の使い方ばかりを行うことによって、まさに実践に活かせないトレーニングとなってしまう可能性が示唆されるためだ。

◆筋力が単体で使用されている動作はほとんど見当たらない

 現実的に、実践競技で行われる動きを解析していくと、筋力が単体で使用されている動作はほとんど見当たらない。

 むしろ、チーティングに見られるような、反動動作などを使用した複数の動き、そして複数の関節が複雑に絡み合ってその動作を実践している。

 そのため、時にはストリクト法が的を射ないトレーニングとなるケースもあることを、スポーツアスリートは意識しておかなくてはいけない。

 アスリートが陥るストリクト正当化論によるウエイトトレーニングの落とし穴はまさしくここにある。

 「頭ごなしにチーティングは危険!」

 と決め込むのではなく、必要に応じてトレーニングに組み込んでいくような柔軟的な思考が大切となってくるのだ。

 パワーリフティング系の競技実践者は、実践ではチーティングさえも上手に味方につけて戦わなくてはいけない。

 しかし普段からストリクトのみの正統派トレーニングだけ積んでいると、いざ本番の場面では苦労することになる。

 もちろん毎日のようにエビ反り状態のトレーニングが続くと刺激を与えたい重要な部位へダイレクトに刺激が伝わらなくなってしまう。

 その為フォームのチェックも何度も確認しながら正しい刺激を与えることができるような努力も当然している。

◆超回復を意識した計画的なトレーニングの遂行が可能

 筋力トレーニングの基本は、対象となる筋肉部位を正確に刺激し、筋細胞を破壊していくことにある。

 適切に筋細胞にダメージを与えることができれば、損傷した筋繊維はトレーニング直後から再生を始める。

 この筋繊維の再生はトレーニング直後から数日にわたって行われるが、修復が完全になされた時、筋肉は神秘的な現象を一定期間迎えることになる。

 これがトレーニングをしていると必ず耳にする「超回復現象」である。

※超回復=傷ついた筋繊維が修復された際に以前よりも強くなる現象

◆ストリクト法とは、基本的な反動などを使用しない純粋に対象部位の筋細胞のみを動員してウエイトトレーニングなどを実践する手法のこと

 この超回復を得るためには、正しい筋細胞、及び筋繊維の破壊がなされなくてはいけない。

 この際に主力となるトレーニング手法がストリクトである。

 チーティング法よりも扱えるウエイトは下がるかもしれないが、怪我の心配もなくオーバートレーニングに陥る可能性も少ない。

 その為、トレーニングの基本原則となる超回復を意識した計画的なトレーニングの遂行が可能となる。

 ストリクト法とは、基本的な反動などを使用しない純粋に対象部位の筋細胞のみを動員してウエイトトレーニングなどを実践する手法のこと。

 チーティング法とはまさに正反対にあたる王道のトレーニング手法である。

 100%純水なストリクトは存在しない事については前述したが、トレーニングの基本形はやはりできる限りストリクトに近い状態を意識して筋トレを実践し、ある程度経験を積んだ段階でチーティングを検討し始めるような流れであれば、チーティングの危険性ばかりでなく、幾つかの利点、使い道をあなたも見つけることができるかもしれない。