スポーツ選手の寿命と活性酸素

運動が寿命を縮めるという説は本当?スポーツ選手と活性酸素の関わり、抗酸化作用のある食品・成分の解説。

★スポーツ選手の寿命と活性酸素(もくじ)

◆激しい運動が活性酸素の発生を招く要因?

 運動を続けているスポーツ選手は、運動をしていない人と比較すると寿命が短かい。

 このような話を耳にした事がある方は多いのではないだろうか?

 この『スポーツ選手は寿命が短い』という説が話題となった原因となっている物質が「活性酸素」と呼ばれる成分である。

 活性酸素は誰にでも日常生活を送っているだけで体内から代謝されている産物のひとつで人間が生命活動を維持する上では必ず発生する物質である。

 活性酸素は主に呼吸によって体内に取り込まれた酸素が代謝される際に発生するため、多くの酸素を取り込む必要のあるスポーツ選手は、大量の活性酸素を体内に発生させることになり結果的に寿命が短くなるというのがこの説のおおまかな概要である。

 特に長時間に渡る激しい運動が継続的に行われるスポーツ競技では、この活性酸素の代謝量が特に多くなり人体内の細胞や組織が徐々にダメージを受ける可能性があることも解明されてきているのである。

 スポーツ選手と活性酸素の関わりについてはかなり古くから様々ん研究がなされてきている為、多くの発表がなされているが今回始めてこの話を知った方は驚かれている方も多いのではないだろうか?

 ここでは活性酸素がスポーツ選手にどのように関与しているのか?また活性酸素を除去する酵素の働き、そして抗酸化作用をもたらす抗酸化物質の摂取についてチェックしていこう。

◆マラソン選手の寿命が短いというのは本当?

 スポーツ競技の中でも特に寿命に関する話題が多く取り上げられてきた歴史を持つ種目は何と言ってもマラソン競技である。

 一時はマラソン選手の心臓は日々のトレーニングによって鍛えあげられるためスポーツ心臓と呼ばれる心肥大状態となる為に寿命が短くなると指摘されていた。

 しかし、近年はスポーツ心臓説以上に活性酸素が与える影響がマラソン選手の寿命を短かくしていると考えられるようになってきている。

 マラソンのゴールシーンではゴールテープを通過した瞬間に倒れこむシーンを多く見かけるが、これほどに人体を酷使している状況下で戦い続ける長距離ランナー達を見ていると体にとっては悪影響をもたらしている可能性があるように感じてしまう部分もある。

 しかし活性酸素という側面から考えた場合はマラソン競技だけでなく、サッカーや時には4時間を超える長時間の試合ともなるテニス競技なども大量の活性酸素をもたらす競技種目であると考えられる。

 統計的なデータでは、体育会系と文化系では文化系の人の方が寿命が長い。といったデータも存在するが、これは戦後から大きく時代が変化しトレーニング環境や栄養面の管理、そしてトレーニング概念そのものが全く異なる現代では、この時代のデータを鵜呑みにすることなど到底できる事ではない。

 但し、運動を定期的に行なっているスポーツアスリートは運動をしていない人と比較すると酸素の供給量が多くなる傾向にあり、活性酸素の発生量に関してもほぼ確実に運動を実践している人の方が多く活性酸素にさらされている可能性があることは事実であると言えるだろう。

◆活性酸素は老化の原因物質の代表格

 近年の高齢化社会への移行に伴い日本ではここ数十年に渡りアンチエイジングブームの波が押し寄せている。

 老化は誰にでも起こるものではあるが、この老化をもたらす最大の原因物質として認識されている物質もまた活性酸素である。

 活性酸素は老化だけでなく動脈硬化やがんの発症原因となることも解明されてきているため、アンチエイジングの大敵として取り上げられるようになってきた訳である。

 活性酸素の働きは人体を構成する細胞膜の多価不飽和脂肪酸構成を、細胞膜部分を破壊することで「脂質ラジカル」へと変化させる働きがある。

 尚、活性酸素によって生みだされたこの脂質ラジカルは癌や動脈硬化、老化の原因物質ともなる脂質ラジカルを大量に生成することが確認されている。

◆スポーツや運動が悪影響をもたらすと言い切れるのか?

 スポーツや運動はイメージ的には「健康によいもの」としての先入観によるイメージがとても強いように思う。

 しかし、ここまで解説してきた内容を見た上で考えてみると、一概に運動が健康の促進に繋がるとは言い切れない部分もあることが理解できたかと思う。

 尚、ここまでの内容を簡潔に2点のポイントにまとめると以下のようになる。

★多くの酸素を必要とするスポーツ選手は活性酸素を産み出す量が多くなる
★代謝活動によって生みだされた活性酸素は人体に悪影響を及ぼす成分である

 以上の2点は紛れも無い事実である。

 活性酸素という観点から見た場合にスポーツ競技、特に激しい運動を伴い長時間に渡るスポーツ競技の場合は活性酸素による悪影響を受ける可能性が高いという事になる。

 しかし、活性酸素は前述したように日常生活レベルの運動であっても必ず発生する代謝産物である。

 となると日常生活レベルの運動で産み出された活性酸素はいったいどうなっているのか?という疑問がでてくるはずである。

 この答えは、活性酸素を無害化する酵素の働きによって体内に備蓄されている活性酸素が除去されていることになるのだが、この活性酸素を除去する抗酸化能力をもつ酵素は運動やトレーニングを行なうことによって大量に生成されることも解明されてきている。

 これは運動習慣がない人と運動を定期的に行なっている人では活性酸素を除去する抗酸化物質の体内割合が大きく異なる可能性を持つことを示している。

◆ビタミンCはスポーツ選手が積極的に摂取したい栄養素

 運動が抗酸化作用を強化する可能性もあることが解明されつつある現在では以前のように運動が寿命を短くすると言った見解がなされることは少なくなってきている。

 しかしやはりスポーツ選手の場合は活性酸素にさらされる機会が多くなることも事実であるため、運動を習慣的に行なっていく為にはより積極的な活性酸素対策を行なっていく事が重要となってくる。

 尚、活性酸素を除去する抗酸化作用をもつ最も代表的な成分は「ビタミン類」である。

 中でもビタミンCは抗酸化作用をもたらす成分の代表であり、スポーツ選手にとっては運動を続けていく以上は欠かすことの出来ない栄養素のひとつであると言える。

 特に喫煙者は喫煙によって体内のビタミンCが大量に消費され、かつ煙草からも活性酸素を取り込むことになるため、運動時は通常時より多くのビタミンCを補給しておくことが大切になる。

 尚、ビタミンCを効果的に摂取するには生食品から摂取するように心がけると効率良くビタミンCを摂取することが可能となる。

 これはビタミンCが水溶性ビタミンである為に加熱調理を行なうとビタミンCの損失が大きくなる為である。

 調理法としてはボイル系がベスト、次いで揚げ物も短時間で調理できる為、ビタミンCの損失が意外に少ないので理想的である。

 ビタミンCを多く含む食材としてはブロッコリーや赤ピーマンなどの野菜類、そして果物類ではアセロラや柿、レモン、みかんなどが含有量の多い食品の代表である。

 運動前にビタミンCの補給が難しい場合はビタミンCサプリメント等を状況に応じて効果的に活用しながら体内の抗酸化物質不足を発生させないように心がけると良いだろう。

 尚、ビタミンCに限らず全てのビタミン類はアミノ酸などと異なり体内で生成することが一切できない為、全て食品類から毎日摂取することが求められる。

 油に溶ける脂溶性ビタミンは一定の貯蔵がきくが、水溶性ビタミン類は必要量以上摂取した場合は尿として体外に排出される特徴がある点も把握しておこう。

◆機能時間は短いが抗酸化作用が高いポリフェノールの特徴

 活性酸素を除去する抗酸化作用をもたらす代表的な栄養素としてはビタミン類の他に「ポリフェノール」の存在がある。

 ポリフェノールは数千種類にも及ぶ膨大な種類が確認されている植物が光合成によって糖分の生成を行なう際に生じる成分である。

 ポリフェノール類は機能性食品類として分類されているが、その多くは抗酸化作用が強力であり、作用時間も短時間で働き始めることが大きな特徴である。

 その為、スポーツを行なう1時間程前にポリフェノールを摂取しておくことで活性酸素の抑制効果を期待することができる。

 但し、ポリフェノールが抗酸化作用をもたらす時間は2時間程度、長くても3時間で効果が途切れるため摂取タイミングが重要なポイントとなる事を覚えておこう。

 尚、抗酸化作用が強く働くポリフェノールの代表は、カテキンとアントシアニン。

 カテキンは緑茶や番茶など身近なお茶類に多く含まれる成分で、抗酸化作用だけでなく近年では抗癌作用も期待され研究が勧められている注目度の高い成分である。お茶の中では緑茶が最も含有量が高い。

 アントシアニンはブルーベリーやビルベリーなどに多く含まれる成分でロドプシンと呼ばれる光を感知する成分を再合成する働きを持つことから視力回復サプリメントの主力成分として広く知られている。

 アントシアニン=視力回復というイメージが定着しているが、アントシアニンは活性酸素の発生を抑制する抗酸化物質としての働きも有能である。